高齢診療科の名医に聞く-認知症治療の重要ポイント「高齢でがんになったら…、何を優先して治療すべきか?」

米国でアルツハイマー病の原因物質除去する世界初の新薬承認-高齢診療科の名医に聞く 認知症治療「全身管理が重要」

2021年6月8日に米国でアルツハイマー病の新薬が承認されたことをふまえ、認知症や老年医学で高名な羽生春夫先生(東京医科大学病院 高齢診療科、総合東京病院)にインタビューを行いました。
インタビューより「米国で承認されたアルツハイマー病の新薬は、従来の抗認知症薬とは異なり、認知症の原因となっている脳内の異常たんぱく質(アミロイド)を除去し、認知機能の低下を長期的に抑制する世界で初めての新薬。しかし、特別な検査が必要で、専門医による早期の正確な診断が求められる。高齢者は、認知症だけでなく循環器疾患、骨粗鬆症、呼吸器疾患、整形外科疾患など、多くの病気を持つ場合もあり、全身管理が必要。また、がんになった場合、何の治療を優先するべきか、全身の状態を見る必要がある。全身管理ができる主治医を見つけるか、地域包括支援センターなど活用すると良い」ということがわかりました。
身内に高齢者の方がいらっしゃり不安を感じている方へ「疾患別に各科を受診し苦労している場合は、一度老年科で総合的に診てもらうことを検討しましょう」

名医にインタビュー 羽生春夫先生

【羽生春夫先生プロフィール】
2009年     東京医科大学老年病科教授
2013年     東京医科大学高齢診療科主任教授
2015年9月東京医科大学病院副院長
2020年4月東京医科大学病院高齢診療科特任教授、総合東京病院 認知症疾患研究センター長
◇専門領域ー老年病学、神経病学(特に認知症、脳血管障害など)
◇メッセージー高齢者の”病気”を診るのではなく、病気をもつ”高齢者”をみています。
◇学会
日本老年学会(理事)、日本老年医学会(名誉会員)、日本認知症学会(名誉会員)、日本脳血管認知症学会(理事)など
第38回日本認知症学会学術集会会長(2019年)
第62回日本老年医学会学術集会会長(2020年)

羽生春夫先生にインタビューしました。

◆アルツハイマー型認知症の新薬承認

【編集部】2021年6月8日、アルツハイマー病の治療薬として、アメリカの製薬会社と日本のエーザイが共同で開発した新薬が、アメリカのFDA(食品医薬品局)に承認され注目を集めました。羽生先生は、この新薬についてどう考えられますか?
【羽生先生】従来の抗認知症薬とは異なり、認知症の原因となっている脳内の異常たんぱく質(アミロイド)を除去し、認知機能の低下を長期的に抑制する世界で初めての新薬です。しかし、投与前に脳内のアミロイド沈着をPETのような画像検査や脳脊髄液検査で確認する必要があり、少数例ですが脳浮腫や脳出血などの副反応もみられます。また、病気の発症初期または前段階で効果が期待されることから、専門医による早期の正確な診断が求められます。

◆治療が必要なのは認知症だけではない

【編集部】羽生先生の所属されている高齢診療科とは?
【羽生先生】老年科、高齢診療科、高齢科、老人科など名前は違いますが、基本的には老年医学を専門とした高齢者治療を行います。
【編集部】認知症だけを診るわけではないのですね。
【羽生先生】高齢者は複数の病気にかかっている場合が多いので、複数の科を受診している患者さんが多いですね。例えば、転んで整形外科に、肺炎で呼吸器内科、心臓も悪くて循環器内科にもといった具合です。80歳過ぎていれば、本当は老年科、高齢診療科が良いですよとお話しすると、患者さんに「そんな科があるとは初めて聞きました」と言われます。多かれ少なかれ認知症があったとしても、本当に一番困っていることは認知症ではなくて、循環器疾患も持っている、呼吸器疾患も持っている、骨粗鬆症もあって骨折する、よく震える、今日は朝から食事が取れないといったことです。循環器内科につれていっても、うちは循環器疾患しか診ない、うちは呼吸器疾患しか診ないとか、結局たらい回しになって、挙句の果てが各科で診て貰えたとしても、同じような検査をして同じような薬がどっと出て、大変苦労されている患者さんがいらっしゃいます。
そういう方こそ老年科では総合的に診ますので受診して頂きたいと思います。

◆高齢でがんになったら…、何を優先して治療すべきか?

【羽生先生】全部の病気を治すわけではないのですが、今、真っ先に重要で、何を一番中心に治療するか、ただ病気を治すのではなく生活機能の維持を図るということです。
よくがんなどで、化学療法などを強力にやった、毎日点滴した、3カ月間寝たきりになった、それでがんは治ったけれど、歩けなくなって認知症もひどくなったというケースはたくさんあります。そういう時こと老年科のようなところを受診して頂けば、化学療法を本当にどこまでやるべきなのか、全身を評価して治療していくことができます。

◆地域包括支援センターを利用

【編集部】どうしたら良いか困った時は?
【羽生先生】今は「地域包括支援センター」など核となる施設が各地にできています。そこで、看護師やケアスタッフ、認知症のサポート医、かかりつけ医が入って「初期集中支援チーム」を作っています。こういう窓口を利用すれば、ここを通して専門医、適切な診療機関に紹介してもらえると思います。こうした取り組みは全国的に進められています。

【編集部】患者さんにメッセージを!
【羽生先生】認知症は早期診断と早期治療、対応が重要です。心配や疑いのある場合には、かかりつけ医とご相談の上、私たち専門医へ紹介していただくのがよいと思います。ご家族へ適切な対応法などもご紹介いたします。高齢者の“認知症”を診るのではなく、認知症を伴った“高齢者”を診ることが私の診療ポリシーです。また、認知症の症状は、脳だけではなく全身の病気によって影響を受け、生活習慣の改善や余暇活動を高めることなどによって進行を抑えることも可能となることから、それぞれの患者さんに適した治療や対応を心がけております。

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