<名医に聞く>医師を決めることは、人生を選択すること。各分野の名医に、医師としての使命感や最先端の医療を担う矜持、そして、患者の持つべき覚悟や準備について伺いました。
<略歴>
カロライナ頭蓋底手術センター所長
デューク大学脳神経外科教授
森山記念病院附属 福島孝徳脳神経センター 最高顧問 他
東京大学医学部卒業
患者をたった1回の手術で救う「手術一発全治」がモットー。ひとりでも多くの患者を治療するために、日々欧米や日本など世界中で手術を行なっている。
脳の開口部分を極力少なくする「鍵穴手術」ほか多くの手術手技やオリジナルの手術器具を考案している。自分を越える人材を育てたいと、米国デューク大学やウエスト・ヴァージニア大学で教授として、欧州10カ国で客員教授として、指導を行なっている。世界一の医療水準を誇る米国の医療関係者にも賞賛され、「神の手を持つ」といわれる世界的名医。東京都出身。
福島 孝徳 医師に聞く
福島医師は、患者の負担を最小限に軽減する「鍵穴手術Keyhole Surgery」の考案者です。鍵穴手術とは脳外科手術で必要な開頭の範囲を最小限にすることで、身体的な負担とリスクを抑える術式で、視野が狭い分、難易度が格段に高まります。脳神経外科手術症例は2万4000人に達し、そのうち脳神経外科頭蓋底手術は1万6000例以上(世界記録)、脳動脈瘤2000例以上、頭蓋底腫瘍で1万例といった手術成績です。患者をたった1回の手術で救う、「手術一発全治」をモットーとし、ひとりでも多くの方を治療するために、日々世界で手術を行なっています。福島医師の治療方法や医師選びについて聞きました。
画期的な「鍵穴手術」を開発
私が鍵穴手術を開発するまで、脳外科手術は「漏斗型手術」と呼ばれ、患部が見やすいように患部より大きな切開口を開けるものでした。私が1982年に確立した「鍵穴手術」は小さな切開口から、より大きな患部を手術するという画期的なものでした。
それは、「全てを患者さんのために」という私の信念から生まれました。
当初、「三叉神経痛や顔面痙攣の手術をしていて、どうしてこんなに大きく穴を開けるんだろう」という疑問が始まりでした。小さな穴からでも手術者が動いて角度を変えて患部を見れば全て見えるという、今までとは全く逆の発想から生まれました。切開部が小さくなればなるほど、患者さんへの負担は小さくなります。患者さんの負担軽減を第一に考えますから、部下の医師が手術で予定より1ミリ大きく開けて激怒したこともあります。今では5ミリの術野で手術ができます。
三次元ナビゲーションシステムで安全な手術を行なう
私は、コンピュータ・ナビゲーションシステム、三次元空間認識技術を手術分野に導入する初期開発に携わりました。1980年代、30年前に私の弟子が世界初のナビゲーションシステムを発表しました。
例えば頭蓋底腫瘍は、非常に奥深く腫瘍全体を把握する事が難しい事が多いのです。手術中にどの程度の深さに到達しているか、腫瘍をどの程度摘出しているかを、この三次元空間認識技術によって、前もって撮影してあるCTやMRIの画像と組み合わせ、適切な位置の把握が可能になるのです。
これは、今や私の手術には欠かすことができないもので、事前に患部を撮影したCTやMRIの画像情報をコンピューターに取り込んで、誤差1ミリ以下の正確さで手術の目標部位を特定できるというものです。CTやMRIなどの二次元的なデータでは、三次元的な空間の位置情報の把握は直感的にしかできなかったのが、このシステムにより、手術時に事前の診断画像から三次元的に把握できるようになりました。
これは、患者さんの負担を少なくするため、切開部を大きくしないという鍵穴術式の視野の狭さをカバーしてくれる必須の精密機器です。
そのほかに私は、多くのオリジナルな手術器具を開発しています。それが世界中で愛用され、間接的に世界中の手術の成功率を高めているのです。
世界一と言われる私の脳外科手技の進歩は、先端的な医療機器の開発無くしては語れず、その器具は福島式吸管、福島式頭蓋底手術用剥離子、鍵穴手術用バイポーラ、福島式万能ホルダーシステムなど多種多様です。
不親切で威張っている医師はダメ
名医の条件は、親切で、誠実で、学術知識があり、臨床症例の経験数があることです。
不親切で、威張っている医師には、かからないことです。
手術にあたっては、臨床経験数、成功率や大きな合併症率を必ず聞くようにしてください。
とにかく、よく丁寧に説明してくれる医師であることが大切です。
外科医の中にはきちんと手術する腕がないのに、口だけの評論家、うまくテレビやネットを利用している偽物もいます。全く手術をしていない、政治家のような医師もいますから、しっかりと手術実績と結果を残している医師であることを見極めることを必ずしてください。
近年、手術数をもとに病院を比較することが行なわれています。手術数はひとつの目安ですが、必ずしも手術数が多いことは「良い医師・病院」の指標ではありません。
困難な手術を合併症なく治療できるかが重要
単純なことで、普通の難度の手術(第1群)を多数行なってもそれは「普通の病院」に過ぎず、決して最良の病院とは言えません。「難度の高い困難な手術(第2群)」の手術数と、その成功率及び重大合併症率(死亡率も含む)によって、真に良い病院が分かります。
そして、ドクター自身の難手術の経験数と重大合併症リスク率、患者さんからの感謝の数が良医か否かの判断基準になります。
全国からデータを集める際、第1群症例(良性・単純)、第2群症例(良性・困難)、第3群症例(全治困難な悪性腫瘍)を明白に分類することが重要です。
専門家による、これらのデータの正当性を判定するチェック機構も今後必要でしょう。
英国や中国のように、日本も治療の適用範囲に応じて病院を分類すると共に、ドクターにも同様のハンディキャップ制を課していかねばならないと考えています。つまり、実績がない医師は実力以上の手術ができないようにするのです。
データ集積の例として、全国の福島孝徳関連13施設の脳腫瘍、脳動脈瘤、神経血管減圧術(MVD)について、第1群、第2群の手術数と合併症率を後述の図で示します。
なお、脳腫瘍の第3群は化学療法、放射線治療、免疫療法を含む総合的な治療を要する浸潤性悪性脳腫瘍、神経膠腫(グリオーマ:脳の神経細胞と神経線維の間を埋めている神経膠細胞から発生する腫瘍)を示すため、この手術結果で良い病院の判定はできません。
日本は良性脳腫瘍・頭蓋底腫瘍のエキスパートが少ない
日本は諸外国に比べ、脳卒中(脳血管病)の患者さんが多い国です。従って、日本の脳外科専門医はバイパスや脳動脈瘤手術を得意としています。他方、難度の高い良性脳腫瘍や頭蓋底腫瘍のエキスパートが少ないのが現状です。
私は、今年でアメリカに渡って25年になりますが、今でも年間600例の手術を執刀しています。私が所属するデューク大学脳神経外科センターは、目下年間6000例(2014年1~12月)の手術を行なっており、脳腫瘍手術総数2000例(うち、神経膠腫1200例)で世界最大の脳腫瘍センターとなっています。
なお、デューク大学では、定位放射線治療や、脳動脈瘤、脳動静脈奇形に対する血管内治療も手術数には入れません。これらは全く別のカテゴリーの治療法であり、脳神経外科開頭手術とは区別すべきと考えているからです。
脳動脈瘤も、破裂くも膜下出血例と未破裂例を区別すべきです。破裂した脳動脈瘤手術は、重症度、出血による損傷、脳血管攣縮や水頭症など、手術以外の出血による合併症があるからです。脳動脈瘤手術の良い病院、エキスパートの判断は10ミリ以上の未破裂の難しい動脈瘤の全治率、合併症率の実績で判断せねばなりません。
手術を〝試している〟としか思えない医師がいる
私のところには、世界中から手術の依頼が来ます。その中で、他の医師が下手な手術をして、どうしようもなくなり、私に助けを求めて来る患者さんがいます。その状態を見ると、本当に心の底から怒りを覚えます。まず、全く見当違いの手術をする医者がいます。そういう選択肢しか思いつかなかったのかなというレベルではなく、医学的に考えられないという手術をするのです。
次にあるのが、明らかに手術をする知識も経験もないのに、「やってみたかったから、やってみました」というような手術です。これは、経験がある医師には分かることです。治す自信がないなら、手を出すべきではありません。
それなら、私には出来ませんという医師は、ある意味誠実かもしれません。
患者さんに、「私は経験不足で成功する自信がありませんが、手術をやってみたいので、やらせてください」と正直にお願いしたのか、と問い質したいくらいです。
必ずしも開頭することが良いとは言いませんが、必要な時は開頭して、きちんと手術する必要があります。例えば、内視鏡で脳腫瘍を吸引し、雑なオペで脳腫瘍を脳内にまき散らして、その後に、放射線を当ててさらに悪化させたという、何をしたいのか分からない手術を行ない、もうどうしようもなくなって、その患者が私のところを受診したという例もあります。
私の主義は、「手術一発全治」です。それが、一番能率的なのです。
無謀な手術の跡を見ると、怒りで震えます。患者さんのことを思うと、心が張り裂けそうになります。
自分の実力以上の難しい手術を試して、失敗して、そのまま知らんぷりをするなど、「犯罪」です。そういったことが、大学病院や大病院でも行なわれています。手術がうまくなるためには、上手な手術を見て段階を踏んでいく必要があります。意味もなく実験的なことを試しても、手術がうまくなることはありません。
また、私も放射線治療などで手術せずに治るならそれが理想です。しかし、手術が必要な場合の方が多いのです。その時は、やはり決断しなければなりません。
医者が寿命を決める
例えば、今日手術した15歳の子は、脳腫瘍が出来た患者さんでした。
診察室に私が入って行ったら、その子の親戚など大勢の人が来ており皆が「どうすればいいか分からない」と泣いていました。
聞けば、地方の国立大で腫瘍が見つかったけれど、場所的には問題ないから、このまま放っておけと言われたそうです。しかし、色々と調べてどうも心配になって私の所に来たそうです。
詳しく診察したら、腫瘍の大きさがステージ2に近かった。腫瘍は大きさのステージ(進行具合)と場所、そして進展度が全てを決めます。私が診たところ、このままでは、あと数年でもう取り返しがつかなくなるところでした。
私は決断して、「どうか私を信じてください。これは取らなければ危ないものです」と言って今回手術しました。
その腫瘍は非常に難しい場所にありました。本当はもっと切除したかったのですが、後遺症の可能性を考える必要があり、本当に微妙な位置でした。しかし、悪いところは全摘しました。再発する可能性はゼロではないですが、ほぼないと言っていいレベルです。
手術が無事に終わって、今度は親戚一同が嬉し泣きでした。本当に良かったです。
しかし、そもそもですが国立大にも拘わらず、「そのまま放っておけばいい」と言ったその医者の見識を疑います。
こういうケースの場合、ミスの判断をした医者が自分の間違いに気付くことが必要です。今の制度のままでは、自分の間違いに気が付くことが出来ません。間違った判断をしたことを、その医師にフィードバックするシステムが必要です。患者さんの方からは言いにくいでしょう。健全な医療システムが発展するためには、是非こうしたことが必要だと思います。
例えば、小児が頭痛がする、気持ちが悪いと言うと、下手な小児科に行ったらみんな胃腸風邪にされてしまいます。CT検査もしないのです。
片方の目がおかしいと言うと、すべて白内障という診断だけで終わってしまいます。これらは脳腫瘍の症状があり、その可能性を疑いもせず、検査もしない医師が多すぎます。
片方の耳鳴りがする、ふらつくと言っても、耳鼻科の先生はメニエールとか突発性難聴とかと病名をつけてしまいます。もう誤診だらけです。そして、病気は分かった時には進行している。日本の一般医師のレベルはとにかく低いのです。
医師を取り巻く環境整備も必要
治療のレベルアップには、現在の医療制度を変える必要もあります。例えば、アメリカには、ファミリーメディシンという、一般家庭医のシステムがあります。
これは、日本で昔からある「かかりつけ医」とは違います。家庭医専門の教育を受けた幅広い知識を持った総合医です。この家庭医が軽度の治療と、より専門的な治療が必要かを分けることが出来ます。それから、一部の治療行為が出来る、医師助手看護師(PA)が日本にはいません。そして、早急に解決するべき問題と思うのは「麻酔看護師」がいないことです。
アメリカでは、麻酔に携われる麻酔看護師がいます。1人の麻酔科医が麻酔看護師を使って一度に5件でも手術を診ることが出来るのです。日本では、1人の麻酔医が一つの手術室しか診ることができません。高額な報酬の麻酔医を集めることが出来ない為に、手術をやりたくても、数が限られてしまうのです。しっかりとした訓練をすれば有能な麻酔看護師で手術は十分安全に可能であり、多くの患者さんを救うことが出来ます。他国ではすでに実施されているのに、「今時、日本の当局は何をやっているのですか」と言いたいのです。政府、厚生労働省には、早急に改善をお願いしたいです。
医師不足と言われていますが、日本ではもう医者はいらない、足りていると思います。私は医師過剰時代が程なく来ると予想しており、医師の人件費で将来はもっと医療費が増えると考えます。医師は不足しているのではなく、偏在しているのが問題です。今後、日本で必要なのは医師ではなく、看護師の倍増です。
例えば、アメリカの救急病院に通常、医師の数は少ないです。医師は給与が高すぎるので、先ほど話した医師助手看護師(PA)が最初の対応をします。しかし、その為の訓練教育がされており、問題ありません。医師が医師助手看護師に任せても良いと判断した薬の処方、医療行為が出来るのです。
こうした、医療体制の改善も医療過誤を防ぐために非常に大切なことだと思います。医師、病院側だけではなく、国民の皆さんにも真剣に考えてほしいのです。
とにかく検診で早期発見を
さて、大きな病気になったり手術をせずに済むには、どうしたらよいでしょうか。
それは、やはり定期検診を受けることです。各ドックをとにかく受けることです。脳ドック、癌、循環器、消化器、婦人科ドック、腫瘍マーカーも受けてください。
これらの検診をやっていれば、まず大丈夫だと思います。これらの検査を受ければ、93~95%は安心、大丈夫と言えるでしょう。病気が見落とされる、漏れるのは2~3%の確率です。癌ドックをやれば96~97%、脳ドックは99%の確率で大丈夫(検査漏れがない)ではないかと思います。検査技術は、どんどん進んでいるので、年一回のドックで早期発見することが可能です。病気は早期発見、早期治療が大原則です。しかし、一番はやはり、病気にならないのが勝ちであることはいうまでもありません。
しかし、皆さん、もし病気が見つかったらどうしましょう。今、お話ししたように受診した医師、手術で人生は決まってしまいます。しっかりと実績のある名医・達人を選びましょう。
先ほどお話ししたように日本の医療制度には大きな改革が必要と考えます。もう、崩壊寸前と言えるでしょう。私は、以前から日本の医療制度の改革について提言を行なっています。手術出来るレベルに達していない医者が、自分の興味本位としか言えないような稚拙な手術を行なっている例が非常に多いのです。そうしたひどい手術を受けてどうしようもなくなった患者さんが、自分のところにも多く来られます。そうした犯罪的行為には怒りを禁じ得ません。
日本の医学教育は、臨床実習が少な過ぎます。医師としての適応が無いのに、筆記テストだけで医者になってしまうのは大きな問題です。今の臨床研修制度では有能な臨床医は育ちません。
加えて、患者さん側の意識改革も必要です。日本は他国と比較して格段に1人当たりの受診回数が多すぎます。また、治療費は安いのが当たり前ではなく、良い医療、命を救うにはやはりお金がかかることも知ってほしいのです。国の医療費の使い方にももっと議論が必要です。
私はいろいろな場面で、積極的に意見を発信しています。皆さんと協力してオールジャパンで日本の医療をより良きものへと改革をしていきましょう。
良い医師を選ぶ為に患者さんは、もっと強くなってください。医師に自分の病気についてもっと説明を求め、その医師がどれくらいの実績があるかをはっきり聞いてください。それで医師があやふやな返答をしたり怒り出したら、受診はやめた方が良いでしょう。
良い医師なら、必ず真摯に答えるはずです。
桜の花出版編集部(編)『2016年版 国民のための名医ランキング―いざという時の頼れる医師ガイド 全国名医276人厳選』桜の花出版、2016年、204~217頁、ISBN:978-4434206887