腎臓病「食事療法」の自己流に注意! 遠方からも患者さんが訪れる名医に聞く

ただ食事療法を行ってもらうのではなく、患者さんに結果をフィードバック

腎臓病治療で高名な吉村吾志夫医師(昭和大学藤が丘病院 腎臓内科 元教授・現客員教授、新横浜第一クリニック院長)にインタビューを行いました。
インタビューより「腎臓を守る、腎機能の低下を抑制するためには食事療法が大切。しかし、自己流では効果が薄いか、逆に体を悪くすることがある。腎臓専門医、特に食事療法をきちんと指導し、適切な検査と食事記録から食事療法の成果を確実に評価しフィードバックしてくれる医師を選ぶことが大切」ということがわかりました。腎臓に不安を感じている方へ「早期対応で、健康寿命を延ばしましょう」

名医にインタビュー 吉村吾志夫先生

【吉村吾志夫先生のプロフィール】
昭和大学藤が丘病院腎臓内科元教授・現客員教授、新横浜第一クリニック院長。
平成20年に三代目の昭和大学藤が丘病院腎臓内科教授に就任した吉村吾志夫氏は、慢性腎臓病の食事療法においてパイオニアの一人であった、先代の出浦照國教授が提唱されていた食事療法を継承するとともに、糸球体腎炎の発症や進展に関する研究に加えて、IgA腎症に対する扁桃腺摘出+ステロイドパルス療法の有効性などの多くの臨床研究に取り組んで優れた治療成績を挙げられました。遺伝的な腎疾患も含め膠原病などにおいても近隣の多くの医療機関との連携を構築しました。2016年退官後は、従来の臨床研究の継続とともに、食事療法の医療従事者や患者さんに対する啓蒙活動を昭和大学の栄養士とともに全国で展開しています。

インタビューポイント

(1)食事療法は大切だが、どのように行い、またどのようにその効果を評価するのか。
(2)その場合、どのような病院受診が望ましいのか。
(3)普段お世話になっているかかりつけ医の先生の受診は、どのようにしたらいいのか。

食事療法ー患者さん自身が考え実行できる治療

吉村吾志夫先生にインタビューしました。

【編集部】吉村先生は、腎臓専門医でいらっしゃいます。腎臓専門医は全国で5,777人(2020/5/26現在)しかいなく、腎臓病患者さんの多さからすると、かなり少ないですね。
【吉村医師】そうです。日本に、慢性腎臓病(CKD)の患者さんは、約1,330万人いらっしゃいます。成人の約8人に1人にあたる数です。また、人工透析を受けている患者さんも、すでに 2019年末の施設調査結果による透析患者数は344,640人に達し, 人口百万人あたりの患者数は2,732人で、毎年増加しています。患者さんの数を比較すると、腎臓専門医は非常に少ないと言えるでしょう。
人間ドックや健診で、腎臓病が見つかっても、特に症状もなく、またどうしたら良いか分からずそのまま放置してしまい、悪化し人工透析直前になってから、腎臓専門医を受診する患者さんも少なくありません。早めに腎臓専門医に受診して貰えたら、人工透析は避けられたのに…と思うことが多々あります。人工透析になってしまっては、人生設計が変わってきてしまいます。

【編集部】腎臓病ではどのような食事療法をするのでしょうか?
【吉村医師】腎臓病の食事療法には、大きく分けて二つの柱があります。一つは腎を保護し、高血圧をコントルールし、浮腫の予防や改善を目的とする食塩制限です。もう一つが、十分なエネルギー(カロリー)を保ちつつ行うタンパク質制限です。食事は毎日の生活の楽しみであり憩いの場でもあります。美味しくかつ制限量を守り栄養学的に問題ない食事を継続することは、簡単ではありません。

【編集部】吉村先生は、腎臓の食事療法に特に力をいれていらっしゃるそうですが、どのようなやり方をされているのでしょうか?
【吉村医師】自己流は続かないばかりか、努力の割に効果が上がっていないことが多いばかりでなく、かえって悪化させることもあります。食事の指導をするだけでなく、大切なことは実際にその食事内容が達成できているかを評価し、患者さんにフィードバックすることです。そのためには規則的な外来通院はもちろんですが、定期的な自宅での24時間蓄尿を施行するとともに、食事記録の記載が重要です。このことから、現在行っている食事療法の効果を判定します。1カ月から数カ月に1度でいいので、これらの評価から治療を組み立てていきたいものです。したがって食事療法を継続するためには、このようなことを行っている施設への通院が望ましいといえます。現在はコロナ騒ぎで来られませんが、海外からも口コミを頼りに当病院を受診に来られる方が時々いらっしゃいます。

【編集部】海外からもいらっしゃるんですね。遠くから通うのは大変ですね。
【吉村医師】患者さんの熱意には頭が下がります。海外でなくても、当クリニックは新幹線の駅のすぐ近くのために、全国各地から患者さんがいらっしゃいます。かかりつけ医の先生とのと連携によって診させていただいております。状態によりますが当病院には年1回から数回受診していただき、いつもの治療はかかりつけ医の先生にお願いしております。遠方でなくても近隣のかかりつけ医の先生方とも同様な方法で診療をさせていただいております。

【編集部】24時間蓄尿とはすごいですね。どのような検査なのでしょうか?
【吉村医師】自宅での24時間蓄尿からは多くの情報が得られます。
通常、蓄尿検査では1日(24時間)の尿を溜めます。溜める容器、そのためのプラスチックのバックは当クリニックで用意します。24時間蓄尿検査は、1日の尿量や尿タンパク量がわかるのはもちろんですが、1日に食べたタンパク質や食塩摂取量を知ることができます。またクレアチニンクリアランスという正確な腎臓の機能が計算できます。以上のことから適切な食事療法が行われているかどうかも分かります。

【編集部】食事療法や運動療法の勧めなど、多くの腎臓病関連の本が出版されていますね。
【吉村医師】それだけ多くの方々が食事療法を必要だと感じているということだと思います。しかし、厳しい食事療法を行っている患者さんでも、効果がすごく上がる人とあまり上がらない人があります。だから、自己流で食事療法を行うのは効果が出にくいだけでなく体に有害な場合すらあります。
折角ご本人もご家族も懸命に努力しても、効果が上がっていない、かえって悪影響があるのに患者さんはその方法を継続しているというのでは腎臓病専門医として心が痛みます。
ですから、腎臓に不安がある方は、ぜひ一度腎臓病専門医、特に食事療法に理解のある病院を受診して貰いたいと思います。また、腎臓病のすべての方が、食事療法が必要なわけでもありません。無理して必要でないことをすることもありません。この点も専門医との相談が必要です。

【編集部】患者さんへのメッセージを。
【吉村医師】腎臓病はかなり悪化するまで、明らかな症状が出ないので、気づいたときはすでに腎不全だったということは珍しくありません。早期に見つけ適切な治療を開始すべきです。内服さえすれば一定の効果が得られる薬と異なり、食事療法は患者さんがご自身で考え実行する治療です。腎機能や症状に即した食事が必要です。食事は生活の一部ですから、おいしく継続できねばなりません。患者さんの生活や希望に沿い、かつ治療効果が高まる食事指導のご提供を心がけています。

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